雨が、しっかりと降った日。
田んぼのあぜ道を歩いていると、
山のふもとから、白いものがゆっくりと立ちのぼっていた。
霧というより、
どこか生きているような、やわらかな気配。
ふと、
万葉集の歌が頭に浮かぶ。
―― 山の端に たなびく雲は 我が恋かも
あの時代の人も、
同じように山を見て、
同じように、この「たなびく」ものに心を重ねていたのかもしれない。
もちろん、景色は変わっている。
家も増えて、道も整えられて、
1300年前と同じではないはずなのに。
それでも、
この湿った空気や、
山から立ちのぼる気配に触れていると、
遠い昔の誰かと、
同じものを見ているような気がした。
明日香村は、
ただ古い場所じゃなくて、
時間が、少しだけ重なっている場所なのかもしれない。

