九月の終わり。
明日香の田んぼでは、彼岸花が咲き始める。
赤い花の向こうには、まだ稲が残っている。
少しずつ頭を垂れはじめた稲穂と、彼岸花の赤。
明日香では、田植えの時期がほかの地域より少し遅い。
だからこそ、秋になるとこんな景色が見られる。
私はずっと、「明日香は田植えが遅い」と思っていた。
でも、何を基準にして遅いのだろう。
この土地では、この土地に合った時期に田植えをして、稲を育ててきた。
遅れているのではなく、
明日香には明日香の時間があるだけなのかもしれない。
今は、調べればすぐに「正解らしいもの」が見つかる。
効率のいい方法。
失敗しない方法。
誰かの成功例。
情報が多いほど、私もつい頭で考えて、「正解」に自分を合わせようとしてしまう。
でも、最初から自分だけの答えを探さなくてもいいのかもしれない。
まずは、長く続いてきたやり方に倣ってみる。
なぜそうするのかを知って、慣れてきた頃に、自分なりのやり方を見つけていく。
そんな順番も、悪くない気がする。
彼岸花の赤と、実りを迎える稲。
「遅い」と思っていた時間が、
この景色をつくっている。
その土地には、その土地に合った時間がある。
そんなことを思いながら、
彼岸花の続く田んぼ道を歩いた。

